※ゲーム本編で消滅したキャラクターが全員コンポーザーの手で復活している設定です。
死神のゲームが始まり、
死神のゲームは絶賛開催中。
ゲームマスターの北虹さんに言われ、私はヨシュアを探しに出た。
なんでも伝えたい事項があるらしい。
「コンポーザーを探してきてくれないか?」
死神のゲームは絶賛開催中。
ゲームマスターの北虹さんに言われ、私はヨシュアを探しに出た。
なんでも伝えたい事項があるらしい。
なんだかデジャブを感じる。
前にも渋谷を駆け回って、ヨシュアを探したような……。
デジャブに従って、104の屋上に向かうと、やっぱりヨシュアはそこにいた。
ただ、以前のように暗い表情をして座り込んでおらず、背筋を伸ばして立っている。
目を閉じて、何かに耳を澄ませるように、真剣な顔をしていた。
どうやら眼下のRGをスキャンしているようだ。
私がやって来たのに気付いたらしく、目を開けて視線を上げる。
「やあ」
ヨシュアに手を振り返して、隣に降り立つ。
「こんなところにいた。今日は真面目に仕事してたんだ」
「僕はいつでも真面目だよ。今日も渋谷は平和だね」
ヨシュアが笑って言う。
そうだねと言おうとして、今日が何の日か思い出して、口を閉じた。
「いい趣味してるね」
「そう? ありがとう」
不思議そうに首を傾げてから、一見邪気のない笑みを向けるヨシュアの脇腹を、肘で小突く。
「褒めてない。それで、どこで何が起きてるの?」
「ん? 道玄坂でノイズが大量発生してるよ」
意外にも大したことのない事案に拍子抜けする。
「それだけ?」
私の返答に、ヨシュアは首を軽く振って、戸惑いを表現する。
「それだけって、何が?」
「え、いや、ほら、今日ってエイプリルフールじゃない」
「ユウ、今何時だと思ってるの?」
「今? 二時三十分」
「エイプリルフールって、『午前中に』嘘をつける日なんだよ」
「あれ、そうだっけ」
そんなことを聞いたことがあったかも、程度の随分曖昧な記憶を引っ張り出そうとすると、ヨシュアはやれやれと言わんばかりに首を振った。
「まさか
ユウがそんなことも知らないなんて思わなかったから、何の話かと思った」
ヨシュアの嫌味な口調にむっとして、私は携帯電話を開く。
「エイプリルフールの由来でも調べる気かい?」
図星をつかれて、余計気まずさと苛立たしさが、パワーアップする。
「そうだけど。悪い?」
「別に。一日嘘をついてもいい日、もしくは嘘をついてもいいのは正午までって注釈がついていると思うよ。だ・け・ど、僕が怒ってるのはそこじゃなくて、ユウが僕を、渋谷にとって不謹慎なウソをつくような人間だと思っている点だよ」
「…………すみません」
「そんな口先の謝罪で、僕が許すと?」
「いいえ」
膝を折って正座をし、膝の上にハンカチをふわりとかぶせれば、膝枕の完成だ。
「どうぞ、こちらに。コンポーザー」
「よろしい」
ちょっとえばった顔で頷いてから、私の膝にヨシュアが頭を乗せる。
あの日、初めて膝枕をしてから、事あるごとに膝枕をしてあげるのが、習慣になっている。
「そういえば、去年のゲームの時も、こんなことしてたね」
「ああ、してたかも。そうそう、思い出した。やたらナーバスになったフリして、私に膝枕させてた!」
「フリなんてひどいなあ。あの時の僕は、結構真剣に落ち込んでいたんだよ。立ち直れたのは、ユウの膝枕のおかげ」
「立ち直ったって、あの時は私のことをからかって、『なんちゃって〜』みたいな態度だったじゃない」
「あっちがフェイク。あんまり僕が落ち込んでいるところを見せたら、ユウだって不安になるでしょ? そういうところは、見せないようにしてきたんだから」
私の膝頭を愛おしそうに撫でるヨシュアを見ると、軽口を言えなくなってしまう。
いつもいつもヨシュアに言いくるめられるのが悔しい。
「そ、そうなの?」
「そうだよ」
「じゃあ、ちょっとは私、ヨシュアの力になれてる?」
「もちろん。君は僕のパートナーなんだから、難しいことは考えないで、そばにいてくれればいいんだよ」
ヨシュアに褒められたことが、無性に嬉しくて、照れくさくて、幸せな気持ちになる。
眼下の街の様子を見れば、渋谷のビルの合間に桜が花を咲かせ、美しく花びらを散らしている。
桜の木々の間をぬうように、人々が早足で歩いていく。
桜を指差して携帯電話のカメラをかざす者や、飲み食いする者もいる。
ここからRGを見ると、人々は混沌としたソウルの狭間で泳ぐ魚のようだった。
まるで巨大な水族館だ。
「もう桜が満開だね」
「そうだね。いずれは桜が散って、あのゲームの日になるんだろうね」
「それで秋が来て、冬が来て、来年になる、と」
「来年の話はまだ早いよ」
クスクスとヨシュアが笑う。
「来年もこうして、平和だといいね」
「いいね、じゃなくて、そうなるように僕らが努力しなきゃ」
「そうだね。私も微力だけど、がんばるよ」
「うん」
混沌としているけれど、あの時のような『停滞』した空気はない。
皆、期待に胸躍らせながら、渋谷を泳いでいる。
RGの人間だけでなく、UGの死神たちや、私も、そしてヨシュアも。
ああ、春だなあ。
そう思いながら、ヨシュアの髪の毛を梳いてやるのだった。