眠りの前の幸福

 行為を終えた後の主は、いつも恥ずかしそうに身体を布団で隠そうとする癖がある。
「主、それではお身体が」
 拭けませんよ、と俺が言いかけた時、主は掛布団から目だけを覗かせた。
「恥ずかしい……」
 目元を赤く染めて恥ずかしそうにする主に、俺はいとおしさがこみ上げてくるのを感じた。
 今日は欲望のままに、何度も主を抱いてしまった。
 しかし明日も執務がある。俺はいい。身体が丈夫にできているから、多少の無茶も問題にならない。が、主はそうではない。主は寝不足にとんと弱く、書類仕事をしている最中に眠りかけるところを、俺は何度も見ている。
 ぴょこんと布団から覗いている主の前髪を、俺は優しく撫でる。
「今宵はその、何度も致してしまいましたが、お身体に障りはありませんか?」
 主は気恥ずかしそうだったが、俺の手が心地よいらしく「んん」と声を漏らした。
「だいじょうぶ」
 主が布団の中から俺を見上げてくる。手酷く抱いたのは俺だというのに、俺に心配をかけまいとしているのだから、なんともけなげものだ。
「さあ。今宵はもう眠ってしまいましょう。身体を綺麗にして差し上げますから、出てきてください」
「じ、自分でできるから」

 そう言う主だったが、閨でのことは俺に任せてほしかった。事後の処理まで全て。
「さあ出てきてください。主」
 主、と戯れた口調で主を呼ぶ。その度主はくすくすと笑って、布団の中で身じろぎする。明日の主のことを思えば、一刻も早く布団から出てきて頂きたいが、この戯れる時間も含めて、俺にとって幸福なことなのだ。






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2021年1月28日

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