死神幹部の紅一点、虚西充妃。
彼女が幹部の座につけたのは、努力の賜物と言えます。
基本情報に載せた虚西の攻撃力は、幹部死神はおろか、平死神と比べてもかなり低い部類です。
死神の戦闘力比較(ノイズレポート参照) | ||
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名前 | ATK | HP |
虚西充妃 | 70 | 6000 |
八代卯月 | 85 | 5500 |
狩谷拘輝 | 90 | 6000 |
ビイト | 100 | 5000 |
東沢洋大 | 100 | 8000 |
(※1 ノイズレポートのデータを元に作成しました。)
上の表からわかるように、虚西は体力はそこそこ高いものの、攻撃力が死神の中でもっとも低いです。
弱肉強食なUGの中を、強者ぞろいの同僚達を退けて幹部にならなければいけないのに、この重要なATKが最低値。
普通の死神なら幹部になるのはかなり難しいでしょう。
持ち前の耐久力を活かして持久戦に持ち込めば、彼女の有利ではあります。
さらに虚西はかなりの種類のノイズを精製できます。
持ち前の分析力と豊富な種類のノイズ、そして影を操る能力を駆使して、幹部の座に上り詰めたのは言うまでもありません。
つまり虚西は自分のパワー不足を理解した上で、幹部に至るまでのプランを立てられるしたたかな人間です。
戦略性はかなり高いと思います。
『保身 自分の地位・身分・名誉などを失うまいとすること。』(1)
『虚西の最大のモチベーションは保身である』(2)と羽狛が指摘するように、虚西は自身の体面を非常に気にしています。
裏では目的のために少々あこぎな手段を取っていたようですが、あの手この手を使ってうまく隠し通していたようです。
氷の参謀や鉄仮面など不名誉な通名で彼女を呼んでいたのは、ごく一部の勘のいい死神だけだったと推測しています。
そして戦闘では、自分の身を守るために影に隠れて戦っています。
彼女の言動を見るに、他人のことは信用していないため、自身の感情を隠していると思います。
虚西の吹き出しが固い印象を受けるのは、恐らくそのためです。
戦闘では影に身を隠し、普段は鉄仮面の下に自分の感情を隠しています。
冷酷で計算高い虚西ですが、案外臆病な面もあったのかもしれません。
虚西は『最小の努力で最大の利益を得ようとする性格』(3)のため、省ける手間をなるべく省いて効率よく仕事をこなしていたようです。
そのため部下の死神が、彼女にこき使われている模様。(cf:ヨシュア編4日目)
この虚西の性格、ヨシュアと似ているなと思います。
そんな虚西ですが几帳面で真面目な面もあり、時間と規則についてはかなり厳しく守っているようです。
会議に遅刻した南師に遅れた時間を秒単位で指摘するところに、彼女の几帳面な性格が出ています。
規則を守り、協調性もある東沢を評価していた虚西ですが、反面規則を守らない上奇行を繰り返す南師とは犬猿の仲だったようです。
どうも虚西は型にはまった考え方に囚われがちで、次の行動が予測不可能なタイプの人間は苦手だったようです。
己の美学を貫く南師や、直情型で暴走しがちなビイトは、分析しきれていなかったのはそのためです。
虚西自慢の分析力は、本編ではなかなか発揮できませんでした。
何故なら虚西は
迫りくる渋谷終了の危機、指揮者北虹の暴走、死神ビイトの造反など、挙げればきりがないほどいつもとは全く違う因子が揃い、状況はめまぐるしく変わっていました。
ビイト編最終日では自分の分析が甘かったばかりに、予想外の形で姿を現すことになりました。
まず虚西はビイトの影に隠れて、自分を探してあてもなく渋谷をさまよい続けるビイト達が消滅するのを待つ作戦を立てました。
が失敗に終わっただけでなく、自身を危険にさらす羽目になっています。
渋谷川では南師に、自分の張った結界を解く代わりに、南師がコンポーザーになったら自分を指揮者にする取引をしました。
南師はこの取引を快諾していますが、今まで犬猿の仲だった虚西を、本当に部下として受け入れるでしょうか?
『代理人たちを揺さぶり、自滅へ導く作戦』(4)
思惑通り南師がコンポーザーになっても、反故にされる可能性は極めて高いのです。
禁断化した南師の能力は、以前より2倍以上跳ね上がっています。
コンポーザーの座についたら、さらに能力が強化されることが予想されますし、南師が虚西と対立した場合、虚西の立場はかなり危ういように思えます。
ビイト編でゲームマスターになった虚西は、ビイトの陰に隠れて渋谷を移動していたのですが、ビイトを分析することでいっぱいいっぱいだったようです。
6日間もビイトを分析する期間を設けたのは、ビイトのような破天荒なタイプが苦手だったからです。
ビイトに気を取られたあまり、渋谷に目を配る余裕はほとんどなかったのではないでしょうか。
その辺りにも、虚西は『ゲームの指揮者』の座には執着していますが、渋谷そのものには愛着がなかった印象を受けます。
『コンポーザーなど誰でもよいのです』(5)
コンポーザーは渋谷にとって、唯一ルールを作ることができる存在であり、導き手です。
そんな重要な立場の存在を指して上の発言をしたということは、「渋谷がどうなろうと、関係ない」と言ったも同然。
さらに実の妹のために奮起するビイトに虚西は、『そんなノイズのためだけに死神になるなんて…』(6)と恐るべき言葉を吐いています。
ノイズの正体が尾藤来夢だと知った上で、『そんなノイズ』(6)と言い、挙句ノイズのままだと不都合だからという理由で、ライムノイズを握りつぶしてバッジにしてしまいます。
ビイト編2日目のムービーシーンに、虚西の愛のなさがつまっています。
愛がないということは、裏を返せば情に左右されず、物事を客観的に見ることができるというメリットもあります。
ですから、冷徹なほどゲームを見通せる虚西は、ゲームマスター権限を持つ死神幹部にふさわしいと言えます。
しかし、ゲームの指揮者・北虹が自分の存在をかけて、渋谷を更生する努力を惜しまなかったのは、渋谷に愛情を持っていたからです。
彼ほどではないにせよ部下の卯月や狩谷達でさえ、渋谷を愛し将来を憂いていたにも関わらず、虚西は『ゲームの指揮者になれるかどうか』、つまり自分の立場しか考えていなかったのです。
さてそんな彼女は『愛を持てなかった虚西』(7)『虚西の最大のモチベーションは保身である』(2)と言われていますが、愛情を持てなかったのは自分自身も含まれているのかもしれません。
彼女が『ゲームの指揮者』になりたいと願ってやまないのは、自分の仕事に不満だったからじゃないかと思っています。
キャラクターデザインを担当された野村哲也氏は、彼女について以下のように語っています。
『秘書風という発注にメイドっぽさを足しました。』(8)
幹部でゲームマスターの1人だった虚西でも、幹部陣営での主な仕事は、情報収集や分析、その他雑用(お茶くみなど)のような、秘書的な仕事がメインだったのかもしれません。
特に上司の北虹が、ゲーム中の様子から察するに、かなりワンマンだったようで、部下にあまり仕事を任せなかった様子。
仕事自体は任せていますが、虚西の欲するような仕事が回ってこなかったようです。
かと思いきや協調性皆無で破天荒な南師は、好き勝手に振る舞い北虹はそれを放置している。
かたや自分は秘書的な仕事ばかり……。
虚西と南師が何かと衝突していたのは、性格的に合わないだけではなく、自由を謳歌している南師に、虚西が嫉妬していたのかもしれませんね。
満足できる仕事もなく、同じことを繰り返す毎日に、嫌気がさしていたのかもしれません。
しかも昇進するのも難しい。
北虹がコンポーザーになるか、消滅するか、左遷されるかしなくては、指揮者の座はあかないからです。
幹部の中での総合的な強さは拮抗。
虚西がもし北虹の闇討を狙おうものなら、返り討ちにあうことはほぼ確実。
南師は北虹を慕っていたようなので、下手を打てば2人に袋叩きにされる可能性だってあります。
虚西にとって、今回の渋谷の異変は、千載一遇のチャンスでした。
南師を利用して北虹を指揮者の座から引きずり下ろし、うまくいけば南師も……。
指揮者就任の最初で最後のチャンスだったからこそ、えげつない戦略を実行したのかもしれません。
虚西はビイト編7日目で、気になるセリフを呟いています。
『私は統治者に従属するだけです』(9)
ちなみに従属の意味は
『従属 強大な力を持つものに依存し付き従うこと。』(10)
です。
従属の意味を知った上で、改めて虚西の発言を読み返すと違和感を覚えます。
プライドの高い虚西が“従属”するだけと、人前でおおっぴらに言ってしまえるものだろうか、と。
虚西は自分の軸になる考え方がなくて(もしくは考え方はあっても、自信を持てなかったか)、不安だったからこそ、統治者(コンポーザー)に導いて欲しかったとも、考えられるのです。
直接対面したことのない羽狛から、『虚西の最大のモチベーションは保身である』(2)と本質を見抜かれるほど、虚西の言動はわかりやすいものでした。
死神組織は弱肉強食で出世欲旺盛な者が多く在籍します。
時には参加者との戦いに敗れ消えてゆく死神を、虚西は見たかもしれません。
昨日までいた幹部が消え、いつの間にか別の者が空いた席に座っていることも多そうです。
安定しているとはとても言い難い組織の中、彼女に友好的で対等に話せる死神がいたのでしょうか?
虚西を導く役割は、本人が言う通り誰でも良かったのです。
ですが、直属の上司である北虹は、虚西のお眼鏡に叶わなかったようです。
人を導くほどの余裕がなさそうでしたし、北虹自身が凝り固まった思考の持ち主で、なおかつ人を拒絶しがちです。
さらに虚西は『北虹様のおおせのままに』(11)と言いつつ、北虹の対策を不満に思っていることが、会話の端々から伝わってきます。
1つ前の項目でも書きましたが、上司である北虹に不満を持っていました。
なので、虚西は北虹に従属できないのです。
同僚の南師は得体の知れないことばっかりやってて頼りにならず、しかも犬猿の仲。
部下達は上に何もかも押し付けるだけで、導くなど以ての外。
消去法で考えていくと、虚西にとって頼れそうなのがコンポーザーしか残っていないのです。
指揮者を目指していたのは、指揮者という立場の利点を考えた上での結論、というだけではなく、コンポーザーと直接コンタクトが取れるからなのかもしれません。
多分、普段の虚西なら部下の信頼を踏みにじるような強攻策に出ることは、あまりなかったのではないかと思います。
そんな虚西が、自分に憧れる女性の部下と、幹部にスカウトされたことのある実力者の信頼を、踏みにじるような真似をしたらどうなるか。
まず間違いなく、彼女の評判は地に落ちるでしょう。
今回は、『ゲームの指揮者になる最初で最後のチャンス』です。
しかも渋谷は何らかの異変が起きているため、騒動の混乱に乗じて虚西が部下を切り捨てた事実をうやむやにすることもたやすいでしょう。
さらに無事指揮者になり、渋谷の混乱をおさめることができたら、虚西の大手柄です。
指揮者就任早々、渋谷の異変を解決した優秀な指揮者として、褒め称えられることでしょう。
仮に異変を解決できなくても、部下やコンポーザーに責任を擦り付けることも可能なポジションです。
そして今までのような雑用は減り、指揮者として部下から尊重される立場になるなど、彼女にとってはかなり魅力的だったと言えます。