泥だらけになりながら、生きてきた。
私はいつも孤独だった。誰からも愛されず、守られず、常に孤独な中を生きてきた。私は自分の身を守るために、周囲を攻撃することで自分の身を守るという術しか知らなかった。
だから周囲から疎まれるのも当然の、人生だった。
そんな泥水のような人生から私を救ってくれたのが、長谷部だった。
長谷部は当初、自分に不信感を露わにする主君という存在に戸惑ったようだった。しかし凍り付いた私の心を長い時間かけてほぐしてくれた。
汚れた泥水の上に白い新雪を降らせ、花を咲かせてくれた長谷部。
人を信頼することの大切さを、守られることの安心感を、灰色の日々に笑顔を与えてくれた長谷部。
そんな長谷部が「永遠に貴方と共にありたい」と言ってくれたら、選択肢は一つしかなかった。
しかし長谷部は最後の選択を私に委ねてくれた。
ある晩、私は夢を見た。
月の映える晩に、長谷部と二人で本丸の門を潜り抜け、二人きりの住処へ逃避行するありがちな筋書きだった。
けれどどこか現実感があった。
素足で踏む新雪のサクサクとした感触も、頬を切る風の冷たさも、そして繋いだ長谷部の手の力強さも、リアルだった。
長谷部は自身の神域の入り口でそっと私を振り返った。
「俺が手招きできるのはここまでです。後は、貴方が選んでください。俺と共に永遠の時を生きるか。俺のいない世界で生きるか」
長谷部は寂しげに微笑みをたたえて、私を見上げた。
嘘つき、と私は思った。
本当なら俺とついてきてくださいと言いたいのをこらえて、長谷部は笑っているのだ。
「私の敵は、長谷部の敵だよ。連れて行って、長谷部」
その瞬間、神域が開かれぶわりと藤の花が咲き乱れた。
「現世での可能性を潰してまで、俺と共にいてくださるのですか。嗚呼……、俺はとんでもない果報者だ。俺が折れるその時まで共に参りましょう、名前様」
長谷部の白手袋が私に差し出される。私はその手を躊躇することなく取った。
そして、開かれた神域に私は招かれた──。
2021年2月5日
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