それはまるで毛布のように

 雪が、降っている。
 ばさりと庭の木が音を立てる。雪の重みに耐えきれずに、枝がしなったのだ。城の庭は一面白で覆われていて、足跡一つ見えない。

 けれど私が今いる離れでは、寒さを感じない。
 裸で毛布を被りながら、グラスを傾ける。ホットワインの甘やかな味が喉を痺れさせる。
 ぴたりと閉められた障子の飾り窓越しに見る雪景色は、最高だった。
 ここはしっかりと暖房がつけられ、一糸まとわぬ姿で歩き回っても、寒さを感じないほどに温められている。
 そこに、「また外を見ておられるのですか」と長谷部がやってきた。彼は下穿きこそはいているが、私と同じく裸だった。彼はお盆を持っており、そこには新しいスパークリングワインが置かれている。私がリクエストしたものだった。
 ワインのグラスを受け取ろうと手を伸ばすと、長谷部はわずかに拗ねた様子で首を横に振った。そしてお盆を脇に置き、毛布ごと私を抱きすくめる。そのままちゅ、ちゅ、と何度か唇を触れるキスをする。
「そんなに俺がご用意したこの場より、外の方が魅力的ですか?」

 長谷部が焦れた様子で毛布の隙間から手を差し入れる。冷たい手の感触にひやりと肌が縮こまる。その仕草が長谷部にとって不快だったらしく、舌打ちが聞こえた。乱暴な仕草で、長谷部は私の乳房の谷間を暴こうとする。
 ここは、本丸の離れだ。いや、正確には本丸の離れを模した、長谷部の用意した空間だ。
 もしもここで私が長谷部に「攫って」と言って、名を渡してしまえば、弐度と現世にも本丸にも戻ることができない場所へ、長谷部に攫われてしまうらしい。
 今は名を渡していないから、現世に留まれている状態だ。だからこそ、長谷部は外に関心を示す私が気に食わないらしい。
「俺が怖いですか?」
 長谷部が縋るような視線で私に問うてくる。

「怖くないわ」
 私は素直に自分の心に従って答える。長谷部はほうと息を吐いて、私に体重をかけてゆっくりと押し倒してきた。
 毛布の中でめちゃくちゃにされながら、指と指を交差させる。私よりも長くて、筋張った指。
 今は私が名を告げないからこそ、絶妙な均衡を保っていられるけれど、きっといつかこの世界も壊れてしまう。
 だって、私はこの男に夢中なのだから。






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2021年1月28日

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