お疲れ様

 ぺら、ぺらとこんのすけが書類をめくる音が響く。書類を忙しなくとっかえひっかえ見ていたこんのすけの動きが止まる。
「本日分の書類に不備がないことを確認致しました。お疲れ様でした」
 そう言ってこんのすけは空中でしゅるんと顔を丸めて去っていった。政府に書類を提出しに行ったのだ。
「ああ……疲れた」
今日の業務がやっと終わった。正座して座卓に屈み込んでいたせいか、身体中に疲労がたまっている。座布団に正座していた状態だった私は、そのまま後ろに倒れ込んだ。行儀は悪いけれど、今すぐ休憩したい気持ちの方が勝っていた。
すると私の顔に影が差した。
「主、こんなところで眠っては風邪を引きますよ」
長谷部が困った顔で私を覗き込んでいる。
「いや」
ぷいと長谷部から顔を背ける。どうしても今は背筋を伸ばしている気分にはなれない。私は仕事に疲れているのだ。

「主」
「疲れているの。見逃して」
「仕方ありませんね」
長谷部がため息を吐いた。そしてふわっと私の頭を持ち上げて、何か温かく固いものの上に置いた。
「でしたらどうぞ俺の膝で休まれてください」
そう。長谷部はわざわざ正座して、私に膝枕をしてくれたのだ。
「主、本日もお仕事をよく頑張りましたね。毎日お仕事に励む主はご立派です」
「嘘つき」
「嘘などではありませんよ。まことです」
長谷部の手が優しい手つきで私の肩を撫でる。その手つきだけで泣きそうになった。
「お疲れなのですね。大丈夫ですよ。俺にどんな弱音でも吐かれてください」
「仕事が終わらないの。どんなに一生懸命書類を書いても、どんどん書類が増えてくの。それに戦だって膠着状態で、なかなか後から来た子達の育成に手が回らないし……」
「では明日から書類仕事の人員を増やしましょう。そして育成が手一杯な事を皆理解して、お待ちしております。だから大丈夫ですよ」
長谷部の声はどこまでも優しく、穏やかだった。近侍として傍に控える長谷部は、私の苦労を理解してくれている。
だからこそこうして甘えることができる。
「大丈夫、大丈夫ですよ。どうかご自身を責めないでください。大丈夫、大丈夫ですよ」
長谷部が私の肩を撫でる。私は長谷部の膝に顔をうずめ、静かに安堵の涙をこぼした。




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2020年10月6日

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